
口腔外科
口腔外科について

口腔外科とは、お口の中やあご、その周辺に現れる疾患を治療する診療科です。口腔外科で取り扱う疾患には、歯が原因で起こるもののほかに、ガンなどの腫瘍、スポーツでの外傷など、かなり幅広い範囲が含まれます。
口腔外科の治療は、ほとんどが手術などの外科的手法によるものです。ただし、お口の中の炎症によって顔が腫れているといった場合には、点滴で炎症を抑えたり、血液検査や尿検査などの内科的治療を行ったりすることもあります。
口腔外科を専門とする歯科医師による診断と治療

長年の研究から得た豊富な知識と技術で、お口の中のどんな小さな問題でも見逃しません。
一般的な歯科医師が口腔ガンの症例を見る経験は生涯に3~4例だと言われていますが、当院では昨年1年間で3例の口腔がんを発見しました。これも当院の病変に対する意識の高さではないでしょうか。
幅広い症例を取り扱う口腔外科ですが、当院で治療を行った病変の中から、一部をご紹介します。
舌ガン

「舌ガン(舌癌)」は、舌に発生するがんで、口腔がんの一種です。多くは舌の前方(可動部)に発生し、特に舌の側縁(横の部分)にできやすいです。以下は舌ガンの基本的な情報です。
【主な症状】
・舌にしこりや潰瘍ができて治らない
・痛みやしびれ(進行すると強くなる)
・話しづらさ、飲み込みづらさ
・出血や口臭
【原因・リスク要因】
・喫煙、飲酒(特に併用)
・慢性的な刺激(合わない入れ歯や歯の尖りなど)
・ヒトパピローマウイルス(HPV)
・口腔衛生の不良
【診断】
・視診・触診
・細胞診や組織生検
・CT、MRI、PETなどの画像検査(進行度を調べる)
【治療法】
・手術療法(がん部分の切除)
・放射線療法
・化学療法(抗がん剤)
・進行度によってはこれらを組み合わせる
【予後】
早期発見・早期治療であれば予後は比較的良好ですが、進行すると周囲のリンパ節への転移や再発のリスクが高まります。
扁平苔癬

扁平苔癬(へんぺいたいせん)は、皮膚や粘膜にできる慢性的な炎症性疾患で、**口の中(特に舌や頬の内側)**にできる「口腔扁平苔癬」がよく見られます。
【口腔扁平苔癬の特徴】
・白いレース状、網目状の模様(よく見ると白線が交差している)
・時に赤くただれたり、痛みを伴う(びらん型・萎縮型)
・舌、頬の内側、歯茎などにできやすい
・数か月~数年と、長く続くことが多い
【原因】
正確な原因は不明ですが、以下のような要因が関係していると考えられています
・自己免疫異常
・ストレス
・金属アレルギー(歯の詰め物など)
・一部はC型肝炎ウイルスとの関連が報告されています
【舌ガンとの関係】
・口腔扁平苔癬の中には、がん化(悪性化)の可能性があるタイプもあります(特にびらん型)
・定期的な経過観察がとても重要です
【治療】
・ステロイドの塗り薬(口腔内用) ・口腔内の刺激を避ける(辛い物、タバコ、アルコール) ・金属アレルギーが原因の場合は詰め物の交換など ・定期的な検診によるがん化のチェック
歯肉メラニン沈着

健康な歯肉はピンク色をしていますが、黒ずんでしまうことがあります。その原因のほとんどは、メラニン色素の沈着によるものです。メラニン色素の沈着は、病的なものではなく多くの場合生理的(正常な範囲)な現象によって引き起こされます。
メラニン色素の除去には、レーザー照射を行います。歯科用レーザーを照射することで、メラニン色素を含む歯肉の顆粒層までを除去します。ほとんどの場合、数回の治療でピンク色の健康な歯肉が取り戻せます。
【主な原因】
1.生理的メラニン沈着(体質によるもの)
・特に色黒な方やアジア系の人種に多く見られます。
・年齢とともに目立ってくることもあります。
2.喫煙
・タバコのニコチンやタールが刺激となって、メラニン産生が活発になります(「喫煙者性歯肉色素沈着」)。
3.薬剤の影響
・一部の薬(抗マラリア薬、ミノサイクリンなど)により沈着が起こることがあります。
4.全身疾患の一部として現れることも
・Addison病やPeutz-Jeghers症候群など、全身性の病気で歯肉に色素沈着が出る場合がありますが、これは稀です。
【対応・治療法】
・生理的な沈着であれば治療は不要です。
・審美目的で除去したい場合には、以下の方法があります。
1.レーザー治療(CO₂レーザーやダイオードレーザーなどで色素除去)
2.外科的剥離(歯肉の表層を除去する方法)
舌小帯短縮症

「舌小帯短縮症(ぜつしょうたんしゅくしょう)」とは
舌小帯とは、舌と顎骨を結んでいる組織です。この舌小帯が前歯のすぐ近くまで続いていると、舌の動きが制限され、発音障害や咀しゃく障害を起こすことがあります。それが舌小帯短縮症です。
舌小帯短縮症では、舌小帯の一部を切除して適切な長さにする必要があります。局所麻酔を行い、レーザーメスで切除するので、出血や痛みはほとんどありません。舌小帯短縮症で嚥下障害を起こしている場合、乳児期であっても手術を行います。
【主な特徴】
・舌を前に突き出せない(上手く外に出せない)
・舌先がハート型に見えることがある
・舌を上に持ち上げられない(上顎に付けられない)
・発音障害(特に「ら行」「た行」「さ行」など)
・哺乳障害(乳児の場合)
・舌を使った清掃や食事がしにくい(成人以降)
【診断の目安】
舌を最大限に出した時の長さや形状、動きの可動範囲
【対応・治療法】
・軽度の場合:治療は不要で、経過観察
・重度または機能障害がある場合:
・舌小帯切除術(舌小帯伸展術):簡単な外科手術で舌の可動性を改善
・レーザー、電気メス、ハサミなどを使って行う
・乳児~小児は局所麻酔、成人は局所麻酔で対応
・術後のリハビリ(舌の運動訓練)が重要
歯ぎしり・食いしばり

歯周病は歯の周囲の組織が炎症を起こす病気ですが、その原因のひとつに歯ぎしりや食いしばりがあります。歯ぎしりや食いしばりで歯肉や骨に無理な力がかかることで、歯周病を急速に悪化させてしまうのです。
歯ぎしりや食いしばりの場合、お口の中を保護するマウスピースを着用してのリハビリ治療を行います。マウスピースを着用することで、歯にかかる無理な力を軽減します。
また、自己暗示療法を行う場合もあります。
顎関節症

口を開くときにカクンと音がする、口が開けにくい、あごの関節(顎関節)が痛むといった症状の方は、顎関節症に罹っている疑いがあります。
顎関節症(がくかんせつしょう)は、顎関節やその周囲の筋肉などに痛みや動きの障害が起こる病気の総称です。近年では原因はひとつではなく、いくつもの要因が重なって起こることが多いので、治療も原因に合わせて行わなければなりません。若年~中年の女性に多い傾向があります。
【主な症状】
1.あごの痛み(関節や咀嚼筋の痛み)
2.口が開きにくい・開けづらい(開口障害)
3.関節の音がする(クリック音、ポキッ・ジャリジャリなど)
【原因(多因子)】
・噛み合わせの異常
・歯ぎしり・食いしばり(ブラキシズム)
・ストレスや姿勢の悪さ
・頬杖やうつぶせ寝、片側咀嚼などの生活習慣
・外傷(あごを打つなど)
【治療・対応】
基本的に保存的療法が中心で、手術はまれです。
1.セルフケア
・硬いものを避ける、無理な開口を控える
・温湿布(痛みが筋肉由来の場合)
・姿勢の改善
2.薬物療法
・消炎鎮痛剤、筋弛緩薬、抗不安薬など
3.マウスピース(スプリント療法)
・夜間に装着し、食いしばりや関節の負担を軽減
4.理学療法・運動療法
・口腔外科・整形外科・リハビリでの訓練
5.心理療法(認知行動療法など)
・ストレス要因が大きい場合に有効
睡眠時無呼吸症候群

睡眠時無呼吸症候群とは、睡眠中に何らかの原因で気道が塞がり、何度も呼吸が止まる、または浅くなる病気で、日中の眠気や集中力の低下、倦怠感、生活習慣病(高血圧、心筋梗塞、脳卒中)との関連も深い、非常に重要な睡眠障害です。
2004年から、睡眠時無呼吸症候群と診断された患者さまは、歯科医院でのマウスピース治療が可能となりました。睡眠と歯科領域に関しては、医科・歯科の連携がすでに始まっています。
まずは、提携施設にて1泊2日入院で、睡眠中の無呼吸の状況、酸素飽和状態や体動、眠りの深さを調べた上で、適切な治療を提案させていただきます。
【主な種類】
1.閉塞性睡眠時無呼吸
最も多く、気道が塞がって呼吸が止まるタイプ(首回りが太い人、肥満、扁桃肥大などが原因)
2.中枢性睡眠時無呼吸
呼吸中枢の異常により、呼吸の指令が出ないタイプ(心不全・脳疾患などが関与)
3.混合型
1と2が混在したタイプ
【主な症状】
・いびき
・睡眠中の無呼吸・呼吸停止(家族に指摘される)
・日中の強い眠気、集中力低下
・起床時の頭痛
・口の乾燥、頻尿
・倦怠感、うつ症状
【診断方法】
・問診・スクリーニング検査(いびきや日中の眠気のチェック)
・簡易検査(自宅):携帯型の睡眠モニター
・終夜睡眠ポリグラフ検査:入院して行う精密検査
【診断基準(AHI:無呼吸低呼吸指数)】
・5以上で軽症
・15以上で中等症
・30以上で重症
【治療法】
1.CPAP療法(経鼻的持続陽圧呼吸療法)
最も有効な治療法。鼻マスクから空気を送り、気道を広げて無呼吸を防ぐ。
2.マウスピース(口腔内装置:OA)
軽~中等症のOSAに適応。下顎を前に出すことで気道を確保。
3.生活習慣の改善
・減量、禁煙、禁酒(特に就寝前)
・仰向け寝を避ける(横向きで寝る)
4.手術(一部症例で適応)
・扁桃摘出術、口蓋垂切除術、上気道拡張手術など
【合併症リスク】
・高血圧、脳卒中、心筋梗塞
・糖尿病、うつ病
・交通事故や労働災害(強い眠気による)
ドライマウス(シェーグレン症候群)

ドライマウス(口腔乾燥症)は、唾液の分泌量が減ることで口腔内が乾燥する状態で、さまざまな原因がありますが、その中でも代表的な疾患がシェーグレン症候群です。
■ シェーグレン症候群によるドライマウスの特徴
【主な症状】
・口が渇いて話しにくい、飲み込みにくい
・水分がないと食事がしづらい
・舌や粘膜のヒリヒリ感(舌痛症に似た症状)
・虫歯の多発(特に歯頸部・根面)
・義歯の使用が困難になる
・口臭、味覚異常
【歯科での対応・診断の流れ】
1.問診と視診
・乾燥の自覚症状、話しづらさ、服薬歴の確認(薬剤性との鑑別)
2.唾液分泌量の検査
・安静時唾液分泌量:1分間に0.1ml以下で要注意
・ガムテストやサクソンテスト(唾液の刺激分泌量を測定)
3.舌・口腔粘膜の状態観察
・乾燥、舌乳頭の萎縮、裂溝など
4.医科との連携
・シェーグレン症候群が疑われる場合は、内科・膠原病科に紹介
・血液検査(抗SS-A/B抗体)、唾液腺生検などで確定診断
【ドライマウスの治療・ケア(歯科領域)】
対症療法・日常的ケア
・唾液腺マッサージや口腔体操
・保湿剤の使用(ジェル、スプレー、洗口液)
・こまめな水分補給・口呼吸の改善
・シュガーレスガムやタブレットで唾液の刺激
・禁煙・脱水防止・湿度管理
薬物療法(医科と連携)
・セビメリン(ムスカリン受容体刺激薬)などで唾液分泌促進
・保険適応あり(シェーグレン症候群の診断が必要)
【定期管理の重要性】
・う蝕・歯周病のリスクが高いため、定期的なプロフェッショナルケアが必須
・義歯使用者には吸着状態や疼痛の評価も継続的に必要
・口腔粘膜の変化(カンジダ症や潰瘍)にも注意